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だらだら会議は苦痛なあなたにおすすめ。ミツバチに学ぶ最良の意思決定術。

ミツバチの会議:なぜ常に最良の意思決定ができるのか

トーマス・D. シーリー

『ミツバチの会議:なぜ常に最良の意思決定ができるのか』によれば、ミツバチの新しい家探しは初夏から始まる。その際、彼らは実に民主的な討論を経て、どの候補地を新居とするかの合意に至るという。

本書の原題は『HONEYBEE DEMOCRACY』直訳すればミツバチの民主主義だ。長年、ミツバチの家探しについての研究を行ってきた著者による、ミツバチの集団意思決定についての面白さと不思議さを伝えてくれる一冊だ。

リーダーが存在しない意思決定プロセス

この意思決定プロセスで最も特徴的なことは、他のハチに何かを命令するリーダーが存在しないということだ。特別な知識や知能を持つ中央集権的な決定者があらかじめいて、他の者たちを最善の行動に導くというものではない。

 

果たしてリーダーなしに集団が機能するのだろうか。

 

別の視点で考えてみよう。良い集団意思決定を阻む大きな要因とは何だろう。それは、独裁的指導者の存在だ。ミツバチの集団はリーダーなしに機能することで、この脅威をうまく避けることができるという。

効率的な集団の五つの習慣

ここで、著者がミツバチから学んだことを大学の教授会の進め方に実際に取り入れてみたという「効率的な集団の五つの習慣」を以下にご紹介しよう。

1.意思決定集団は、利害が一致し、互いに敬意を抱く個人で構成する
2.リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする
3.多様な解答を探る
4.集団の知識を議論を通じてまとめる
5.定足数反応を使って一貫性、正確性、スピードを確保する

ハチから学んだことがヒト集団にもうまく当てはまり、意思決定が最適化されることが実証されたという。これは単なる偶然だろうか。

ミツバチに対する烈々たる情熱

著者のトーマス・D・シーリー氏は、ミツバチ研究の第一人者だ。ハーバード大学でミツバチの研究により博士号を取得し、現在はコーネル大学で生物学教授を務めている。すでに『ミツバチの生態学』『ミツバチの知恵』と二冊の邦訳書が出版されており、本書はその三冊目だ。

 

なぜミツバチの生態についてだけで、これだけ詳細な書を記せるのか。「フィールドワークにおいて、何日も何週間も成果の出ないときもあるだろう」と著者は言う。「ミツバチ研究の楽しさとやりがいを一般の読者と分かち合うためだ」と。ミツバチに対する烈々たる情熱が、40年以上にわたる研究人生の原動力となっているに違いない。

 

本書の採れたてで濃厚な蜂蜜を連想させるカバーが本屋で一際目を引く。

表紙には巣と太陽の位置関係が、裏表紙には豊富な蜜源までの距離と方向についての情報を仲間に送る尻振りダンスが描かれている。ミツバチのダンスに隠されたメッセージを解読せずにはいられないエネルギーを与えてくれる、栄養価の高い内容だ。

意思決定を行うリーダーのための本

本書は、日々の業務で常に意思決定を行わなければならない立場にいる人にこそ相応しい。効果的な集団意思決定プロセスをミツバチの生態から学べるのかと思うかもしれない。しかし、本書を読み進めていく中で、家探しを行うミツバチの行動と優れた意思決定が行われる組織との間に、興味深い類似点があることにきっと気がつくはずだ。

 

何かを決定するということは、2つ以上の選択肢の中からどれかを選ぶために、関連する情報を得て処理するプロセスのことだ。

 

ただこれには問題がある。ノイズの多い情報をもとに選択を行わなければならず、しかもその情報は多くの構成要素からなるため、選択肢の全体像を把握することことができないということだ。


毎日は選択の連続だ。常に最適な解を得られるとは限らない。そしてミツバチは、ほぼ常に正しい決定と選択ができるという。

私たち人類が彼らの集団意思決定の方法から学べるものは何だろう。ぜひ、蜂蜜色の本書をすみずみまで味わってみてはいかがだろうか。