七つの会議
池井戸潤
ありふれた中堅メーカーで繰り広げられた裏側の闇を描いた傑作クライム・ノベルである。
会社という組織の醜悪な闇がここに。パワハラ、隠蔽、不倫。そんな会社が果たしてこのまま平然と存在していいものなのか。読者に問うてみたいものだ。
始まりから惹き込まれていくストーリー
会議中でも居眠りをしているようなどうしようもない八角が、社内でナンバーワンの営業実績ある課長の坂戸をパワハラで訴えた。
どちらが悪いのかと考えた時、居眠りしている八角のほうに非があるように窺える。
だが、坂戸は課長の職を失い人事部付けにされる。「なぜ、どうして」との声が飛んできそうなものだがその裏には隠された秘密があった。
この物語では少しずつ裏の事実が判明していく。
坂戸のエリートなイメージも少しずつ崩れ始める。もしや、坂戸は善からぬことをしているのではないかという疑念が浮かぶ。だがすぐには何が起きているのかわからない。
だからそこ、ハラハラドキドキしながら先が気になり読み進めてしまうのだろう。
ちょっと休憩タイムのようなストーリーも
優衣の話だ。優衣は会社の人と不倫関係にあった。その相手の男は憤りを感じるような嫌な奴。
別れて会社も辞めることになる優衣。しかも寿退社するという嘘の理由で。それが良いのか悪いのかわからないが、優衣は辞めると決めて吹っ切れる。
無人のドーナツ販売所を作ると言う提案をして実現しようと試行錯誤する姿は輝かしい。これには保守的な社風を突き破りやり遂げる痛快さも窺える。
別れた嫌な男についてもスカッとするような展開もある。闇ある会社の話の合間にある休憩タイムと言える話があるのもいいと思う。
隠蔽体質な会社
坂戸のパワハラ問題の裏に隠されていたものすごい闇。隠蔽していた危険な秘密があった。
小説の中でのことではなく、実際に隠蔽問題はニュースになり問い質されている。命の危険を伴うものもある。大問題だ。
それにもかかわらず、会社は隠蔽しミスを認めない。人としてどうなのだろう。絶対にあってはならないことだ。どんなことがあっても断罪されなくてはいけない。
小説の話に戻ろう。
読み始めた段階では、まさか隠蔽問題が持ち上がるとは思いもしないことだろう。これはただの物語では終わってはいけない気がする。私たちの働く会社でも有りうることだ。他人事ではない。
もしそういうことがあったのなら、告発出来るだろうかと考えてしまう。そんな会社ではないと信じたいところだ。
坂戸の心の内と会社というもの
坂戸はなぜ罪を犯してしまったのだろう。会社からの圧力のせいで追い込まれていたためなのか。それとも、親のこと兄のこといろんな物事が重なって何が何でも自分は上を目指すと決めた結果なのだろうか。
どこかで歯車がおかしくなってしまったのかもしれない。坂戸だけが悪いわけじゃない。犯罪に足を踏み入れていなかったらどうなっていただろうか。
きっと、別の誰かが同じ犯罪に手を染めていただろう。そういう会社だ。
人とは弱いものだ。会社の上層部から囁かれたら実行せざるを得ないものだ。そこで、拒否出来る強さを持つ人がいたらよいのだろう。だが拒否した時点で会社を辞めるという事態に発展してしまう可能性が大だ。
そうそう、もしかしたらあの居眠りの八角のようになることもこんな会社で生き残る術なのかもしれない。読み終えてそう思う。
八角のようにはなかなかなれないだろうが、そんな人物がいることで救われることもあるのだ。人は見かけによらぬもの。
会社の窓際的な人が実は凄腕な人材かもしれない。
『七つの会議』というタイトルからは想像出来ないストーリー展開。様々な会議の現場とともに会社の裏の顔を描いた物語なのである。
様相が二転三転してどう展開するのか読書を誘う手法は素晴らしい。
事件の不気味さといい展開のスリルといい最後の最後での明らかになる真相の衝撃といい極上のエンターテインメントだ。企業で働く人々の人間模倣を描く池井戸潤には称賛の拍手をおくりたい。